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【ギラン・バレー症候群関連】ギラン・バレー症候群の診断と病態解明

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【ギラン・バレー症候群関連】
ギラン・バレー症候群の診断と病態解明

監修:杏林大学 医学部 第一内科学講座(神経内科)
 千葉 厚郎 先生

GBSの診断

ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)の診断には、1990年に発表された基準が現在でも広く用いられていますが、これは診断の確実性を示すのではなく、診断の指針を示す内容となっています1)。その基準に、バイオマーカーや病型に対する最近の知見を取り入れて改変したものが表1です。

診断は、以下のように進めます。

  • 典型例では急速に進行する腱反射低下を伴う四肢の筋力低下を主徴とする神経症状
  • 電気生理学的な末梢神経障害の検出ならびに障害タイプの同定(脱髄型か軸索型か)
  • 血清抗糖脂質抗体の検出
  • 脳脊髄液での蛋白細胞解離
  • その他の急性弛緩性麻痺を呈する疾患の除外
  • ※神経症状発症:1~3週間前に先行する感染や予防接種
  • ※最終的な診断の確定:経過が全体として単相性で慢性化しない

一般的には予後が良好な疾患とされますが、重篤な後遺症を残す例や死亡例も報告されています。後遺症を残さないようにすることが重要です。

表1:ギラン・バレー症候群の診断指針(引用文献1)を改変)
[必要事項]
  1. 二肢以上の進行性筋力低下
[診断を支持する臨床所見]
  1. 発症4週間以内に症状はピークに達する
  2. 症状の進行が停止して2~4週間後に症状が改善し始める
  3. 治療に関連した症状変動をみることがあるが、全体の経過は単相性である
  4. 四肢の腱反射低下~消失
  5. 症状の左右対称性
  6. 軽度の感覚障害/異常感覚
  7. 脳神経麻痺(外眼筋麻痺、顔面神経麻痺、球麻痺など)の存在
  8. 自律神経障害(頻脈、不整脈、血圧変動など)の存在
  9. 発症時に発熱を欠く
[診断を支持する検査所見]
  1. 末梢神経伝導検査での異常(伝導速度低下、遠位潜時延長、伝導ブロック、時間的分散、F波潜時延長、複合筋活動電位低下)
  2. 発症1週間以降における脳脊髄液蛋白細胞解離(細胞数は90%で10/μL以下)
  3. 急性期血清での抗糖脂質抗体の上昇(とくにIgGクラス)
[診断を疑う所見]
  1. 筋力低下の左右差が顕著で、かつその状態が持続
  2. 発症当初からの膀胱直腸障害の存在
  3. 50/μLを超える脳脊髄液細胞増多
  4. 脳脊髄液細胞分画における多形核球優位
  5. 明瞭なレベルのある感覚障害

*:必須事項とされていたが、軸索型では亢進することがあり、ここでは“支持項目”とした。

GBSは末梢神経障害を中核とする病態ですが、中枢神経症状がみられることもあり、この場合でも他の所見・経過が合致していればGBSの診断を否定するものではありません。

GBSの症候

GBSは、急性の多発性末梢神経障害です。多くの場合、先行感染後1~2週程度で発症し、その後2週間程度で症状のピークを迎え、その後は軽快に向かいます。

① 運動症状

四肢の筋力低下がGBSの中核症状で、ほとんどの患者さんでみられます。
Camplylobacter jejuni感染後の軸索型では経過中に腱反射の亢進も報告されています。

② 感覚症状

筋力の低下に先行して、四肢遠位部優位の自覚的なしびれ感や異常感覚が70~90%程度の症例で見られます。発症後数日以内ではこういった感覚症状がみられないことも多いですが、発症から1週間程度すると60~70%程度に感覚低下がみられるようになります。疼痛も頻度が高い症状で、急性増悪期には約60%の症例でみられ、感覚障害のある症例や重症例で、その程度がより強くなります。

③ 脳神経症状

30~60%で顔面神経麻痺がみられ、最も多い症状です。四肢の筋力低下より遅れて現れることが多く、進行は四肢の筋力の推移と乖離することもあります。

④ 自律神経症状

約2/3の症例でみられ、循環器症状として血圧上昇27%、起立性低血圧19%、洞性頻脈23%、洞性徐脈5%、尿閉27%、腸閉塞・消化管拡張9%、下痢3%などがあります2)
特に注意すべきは徐脈性不整脈で、心停止も1~6%の頻度で報告されています。このように、循環器症状がみられることがあるため、IVIGの投与の際には、血栓などの副作用に特に注意する必要があります。

亜型

限局した神経症候を示す臨床亜型として純粋運動型、Fisher症候群、咽頭頸部上腕型(PCB)急性両側顔面神経麻痺型、対麻痺型、純粋感覚型、運動失調型があり、Fisher症候群については日本ではこれら亜型を含めたGBS全体の26%を占めると報告されています3)

免疫学的検査(抗糖脂質抗体)

1988年、GBS患者血清からGM1、GD1a、GD1bなどのガングリオシドに対する抗体が検出されたことで4)、病態解明が大きく前進しました。ガングリオシドは、細胞膜に豊富に存在しています。抗ガングリオシド抗体はGBSの急性期症例のおよそ60%から検出されており5)、先行感染病原体によって提示される糖脂質に対して、自己抗体が誘導される分子相同性機序によって末梢神経障害が生じると考えられるようになりました(図1)6)
現在では抗ガングリオシド抗体は、早期診断のための最も重要なマーカーの一つになっています。
たとえば、GBSの先行感染の病原体のうち最も頻度が高いC. jejuniが感染した症例からは、抗GM1抗体が高い頻度で検出されます7)
また、抗ガングリオシド抗体の一種である抗GQ1b抗体は、GBSの臨床亜型の一つであるFisher症候群の80%以上において検出され、本亜型に非常に高い特異性をもった抗体です8)
これらの抗GM1抗体、抗GQ1b抗体の測定には保険適用も認められています。

図1:GBSの発症機序6)

GBSの発症機序 GBSの発症機序

Campylobacter jejuniはガングリオシド様糖鎖を有しているため、感染後の免疫応答において分子相同性機序により抗ガングリオシド抗体(自己抗体)が産生されます。
ランビエ絞輪部の軸索上にはGM1ガングリオシドが豊富に存在しているため、細胞膜上で補体介在性の軸索障害をきたし、神経伝導を障害します。

コラム:Fisher症候群関連疾患にみられるCa2+依存性の抗GQ1b抗体9)

解説:杏林大学 医学部 第一内科学講座(神経内科)
 内堀 歩 先生

FSは急性の外眼筋麻痺、運動失調、腱反射消失の3徴が特徴です。GQ1bは外眼筋を支配する脳神経に豊富に発現しており、抗GQ1b抗体はFSだけでなく、外眼筋麻痺を伴うGBSやビッカースタッフ型脳幹脳炎(BBE)においても高率に検出され、これらの疾患は抗GQ1b抗体に関連した共通の病態機序を持つ一連のスペクトラムと考えられています。抗GQ1b抗体はFSに特異性が高い検査として保険収載されていますが、これまでの標準的な抗体測定法ではFS患者の約10~30%で抗GQ1b抗体陰性例が存在します。最近、抗GQ1b抗体陰性の患者の中に従来の抗体測定法ではバッファーに含まれないCa2+を測定時に加えることにより抗GQ1b抗体が検出されるようになる症例がいることが分かりました。このような抗原抗体反応にCa2+を要求する性質を持つ抗体は一般的にCa2+依存性抗体と呼ばれています。
FS関連疾患症例66例についてCa2+依存性・非依存性抗体の抗GQ1b抗体を後方視的に検討したところ、Ca2+非添加条件下の従来の測定法で66例のうち55例(83%)が抗GQ1b抗体(単独抗原+複合抗原)陽性でした。従来法でGQ1b単独および複合抗原に対する抗体が共に陰性であった11例に対して、さらにCa2+添加条件で抗GQ1b抗体を測定したところ、8例でCa2+依存性抗体が陽性となりました(単独抗体7例、複合体抗体1例)。
従来法で検出されるCa2+非依存性抗体では、Ca2+添加により抗体活性が低下するケースもみられました。つまりCa2+は必ずしも抗原抗体反応を増強しているのではなく、Ca2+依存性抗GQ1b抗体ではCa2+とGQ1bが結合した立体構造を抗原エピトープとして認識している可能性が考えられます。Ca2+非添加・添加条件の両者を組み合わせて検討することにより、最終的にFS関連疾患の95%(66例中63例)でGQ1bに関連した抗体が検出されました(図2)。FS関連病態ではこれまで考えられてきた以上に広範囲にわたって抗GQ1b抗体が病因的に関与している可能性があります。

従来の標準的測定法とCa2+依存性抗GQ1b抗体を適宜測定しています。
もし検査をご希望される場合は下記のHPをご参照ください。

杏林大学神経内科学教室http://neuron.umin.jp/labo1/

図2:FS関連疾患症例に対する抗GQ1b抗体検査結果

FS関連疾患症例に対する抗GQ1b抗体検査結果FS関連疾患症例に対する抗GQ1b抗体検査結果

引用文献
1)
Asbury & Cornblath: Ann Neurol 1990; 27: S21-24
2)
Ropper, et al: Guillain-barré syndrome. 1991
3)
Mitsui, et al: J Neurol Neurosurg Psychiatry 2015; 86: 110-114
4)
Ilyas, et al: Ann Neurol 1988; 23: 440-447
5)
海田. 医学のあゆみ 2015;255:401‐406
6)
Goodfellow JA et al.: Nat Rev Neurol 2016; 12: 723-731
7)
Yuki, et al: J Exp Med 1993; 178: 1771-1775
8)
Chiba A, et al: Neurology 1993; 43: 1911-1917
9)
Uchibori, et al: J Neuroimmunol 2016; 298: 172-177
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